『ジャパン・アルムナイ・アワード2022』で審査員賞を受賞した株式会社電通コーポレートワン の山田 亮氏・河内 歩氏、電通アルムナイの大門 孝行氏と、審査員 島田 由香 氏との特別対談をご紹介します。

概要

2019年10月に創設された株式会社電通の卒業生を中心とした交流コミュニティで、現在800名近くの登録がある。アルムナイ・リレーション特化型クラウドサイトを通じ参加者の自由なコミュニケーションを促進しており、サイト内チャットなどでの日常的なやり取りのほか、「電通アルムナイクロッシング」(人が交わり、立ち話を交わす交差点)と銘打ち、電通アルムナイが登壇してクロストークするセッションの場を用意するなど、互いのチャレンジを刺激し合える活動も実施。また、鳥取県が主催するアイデアソンへの参加など、メンバーがこれまでの経験を社会で活かす活動を紹介する機会なども提供している。

評価

「終身信頼関係」という目的に基づき、これだけの人数が集まっている公式アルムナイを構築していることを評価した。特に、鳥取県との連携事例として地方とアルムナイの協業というユニークな活動やアルムナイが主体となって運営する座談会は、他企業・他地域にとってもポジティブな事例になることから、審査員賞に選出。

対談

根底にある「社員一人ひとりの生涯価値最大化」

島田:今回の受賞、本当におめでとうございます!

アルムナイに対する意識はどんどん変化しており、企業の中にいる人も外に出た人も、一緒に仕事も会社も社会も盛り上げようという流れができつつあります。電通さんのようなリーディングカンパニーの取り組みは、今後も注目されていくでしょう。

電通アルムナイの取り組みは、どのような文脈の中で、誰がどうして始めたのでしょうか。背景も含めてお聞きしてみたいです。

山田:まずは、電通の社員に対する考え方からお話しします。

電通の人事の基本思想は、社の最大の財産である「社員一人ひとりの生涯価値最大化」です。社員一人ひとりが持続的にパフォーマンスを発揮することができたり成長ができる環境づくりをすることが、顧客や社会に対して価値提供や貢献することに直結し、その結果として社の存在意義が高まると信じています。

2020年にコロナウイルスが流行し、リモートワークへ移行すると、働く場所がオフィスから自宅などに変わったことで、社員の働き方や働く場所あるいはプライベートとの両立のあり方について議論が起こりました。そのような中で当時の社長の五十嵐からのメッセージに「やるべきときに、やるべき人が、やるべきところで」というものがありました。どこであろうと価値を発揮できる場所や働き方を自分たちで考えて動くことが重要ということです。

同時に、「電通は社会の中に」という言葉もありました。これは「どこで働くか」という議論を超えた、会社のあり方に関わる言葉です。我々は人事なのでまず社員を向いていますが、社員が価値を発揮する相手、つまり社員の先には顧客であり社会がある。そのことを起点にした環境づくり・組織づくりが大切なのだと気づかされました。これは社を卒業された電通アルムナイの施策の検討にも同様の視点を意識しているつもりです。

大門:アルムナイに関わる動きとしては、2015~2016年に早期希望退職者を募ったタイミングが、会社としてアルムナイに着目することになった一つのきっかけになったように思います。たとえば卒業生を呼んで、早期希望退職後のキャリアをどう切り拓いていくかというテーマで講演をお願いしたこともありました。その頃から、卒業生のネットワークを作った方がいいよねということになり、草の根的に活動してきたと聞いています。

卒業生のネットワーク化が徐々に盛り上がってきた頃、ちょうど労働環境改革が実施されたのですが、ここで大きなジレンマが立ちはだかりました。労働時間を適切にコントロールしようにも、クライアントに提供する価値水準は落とせない。では生産性をあげようという中で、その手法の一つとして、外部リソースであるアルムナイとの協業が議論されたのです。そのうちアルムナイと交流をしようという話がホットになってきて、コロナ禍になる前は卒業生の総会を年に1〜2回開催するようになりました。

島田:ありがとうございます。労働環境改革の中で、人という財産に改めて着目し、アルムナイの活用に至った流れがよくわかりました。五十嵐前社長のお言葉もそれぞれパワフルですね。改革を一過性のもので終わらせず、電通を進化させていくエネルギーを感じます。

電通らしい自発的なつながりから、公式ネットワーク化で交流が活発に

島田:アルムナイ・アワードには去年から応募してくださっていますが、そんなチャレンジの姿勢にも前向きさを感じます。この前向きさが電通の特徴なのでしょうか?

山田:電通社員の特徴として、人間に関心がある、好奇心が旺盛というところがあるのかなと思っています。これは私たちがモノを作るのではなく、人と人を繋げて価値を生み出すビジネスモデルということに関係していると思います。社内には多種多様な人間がおり、また取引先や協業相手など、6000社に及ぶ企業との人間を起点とした関係性がある。そんな会社だからこそ、エネルギーが人づてに集まってくるのかなと感じます。

河内:電通アルムナイは、卒業生有志が運営していた「Ex電通人」というFacebookのコミュニティがルーツです。それをオフィシャル化する取り組みの中で、ハッカズークさんにもお力添えいただき、今のネットワークの形ができました。卒業生自身の手でコミュニティが立ち上げられたところに、人と人との関わりや仲間とのコミュニケーションを大切にする電通らしさを感じます。

山田:運営に関しては、電通アルムナイは卒業生の自発的な活動がほとんどで、自分たち事務局が仕掛けている部分はわずかです。一方で、アワードの授賞式では、アルムナイとの関わりを経営戦略に組み込んでいる企業のお話を聞くことができ、感銘を受けました。自分たちは今後どのようにネットワークに関与していくべきか。来年以降の課題ですね。

島田:始まった当時は有志の緩い繫がりでしたが、それが今、オフィシャルなネットワークコミュニティとなったことで、大きなうねりになっているんですね。

アワードで受賞されたことで、今後は電通さんの取り組みを真似したい企業が出てくると思います。会社公認の退職者のネットワークができて、社内にその事務局ができるって、けっこうすごいことですから。

大門:自発的なコミュニティから会社公式のネットワークへと進化するにあたっては、アルムナイのコミュニティツールの導入が大きなポイントでした。それまではExcelで卒業生名簿を管理して、年に一度くらいは総会を行うくらいでしたが、ツールを入れてからは、その中で「どんな活動をしようか」と活発に議論することができています。

導入できたのは、たまたま当時の役員の一人が面白がって賛成してくれたから。我々も決して順風満帆に歩んできたわけではなく、その時その時に上手くいった方へと、けっこう場当たり的に進んできた感じです(笑)

「電通ならでは」なアルムナイネットワークの価値

島田:事務局から見て、ネットワークに対してどんな価値や面白さを感じていますか?

山田:事務局としては、社会の中で活躍し続けている電通アルムナイに対しても「終身信頼関係」を築いていきたいと感じています。

我々は歴史的には代理業の時代が長く、自分たちが主役として脚光を浴びる機会が少ない、いい意味でも黒子のような立場です。そんな中で、電通の卒業生が社会の中で活躍している様子が発信されることで、社員や内定者にとってポジティブな影響をもらえるのが理想の状態です。

そのような観点で見ると、たとえば鳥取県内企業と電通アルムナイとのマッチングの取り組みは、まさに電通出身者という肩書でアルムナイに活躍いただく機会を提供できた良い取り組みだったと考えています。

電通アルムナイのエネルギーを地域へ

河内:これからどうネットワークを活用していくか、事務局としても探っていきたいと思っています。島田さんからご覧になって、電通と親和性が高そうな取り組みのアイデアがあれば教えていただきたいです。

島田:それはもう、がんがん地域に出ていくべきだと思います。電通アルムナイに地域を刺激してもらいたい。

たとえば自分は、年齢によって何かができなくなる、終わるというのは違うと思っていて。それどころか、歳を重ねて経験が蓄積されることで、本人の中で研ぎ澄まされてきた知と知の融合が起こり得るというか、ものすごいアイデアを生む可能性を有していると思うんです。また、そんなアイデアが生まれたとき、いち早く実行に移すエネルギーを持っているのも若い人だけではありません。電通アルムナイの皆さんは、まさにそんな可能性を持った人材だと思います。

そういった方が東京から地域に出ていってくれることで、いま各地域で頑張っている、ポテンシャルの高い人の刺激になると思います。素晴らしい育成効果が出ると思いますよ。自分が携わっている地域にも来ていただきたいな。

河内:電通アルムナイは年齢、経験の幅が広いので、地域の様々なニーズに応えられそうです。

──鳥取県と電通アルムナイとの連携では、大門さんが活躍されてますよね。

大門:はい。自分も電通アルムナイとして、一次産業に関わる会社さんとお仕事をさせてもらっています。マーケティング領域に人事領域と、電通時代の経験を活かした仕事をもらっていますよ。

──鳥取県との協業では、県内企業とアルムナイの副業マッチングを行う団体「とっとりプロフェッショナル人材戦略拠点」が、電通アルムナイ向けに案件を用意してくれるようになりました。大企業での経験を持つアルムナイが地場企業に入るインパクトはそれほど強いということです。そんな地域がこれからどんどん広がっていくと良いですよね。

大門:また、既存の電通アルムナイ・ネットワークとは別に、ニューホライズンコレクティブという合同会社を立ち上げ、個人事業主となった卒業生に業務委託する取り組みも始まりました。他の企業だとなかなかないと思うのですが、既存のネットワークとは別の座組が立ち上がっているんです。

島田:様々な形で会社とアルムナイとの関わりを模索しているんですね。電通さんの取り組みは、色々な企業に希望を与えてくださっていると思います。これからも応援しています!