『ジャパン・アルムナイ・アワード2021』で審査員賞を受賞した大英産業株式会社と、審査員・島田由香氏との特別対談をご紹介します。

概要

若手の退職増や採用難から、時代変化に伴う働く目的の変化を感じ、公式アルムナイネットワークを設立。既に再雇用の実績あったこと以外にも、退職済みのアルムナイが自社に対するポジティブな想いで若手社員にフラットなアドバイスをしてくれていた事などが背中を押した。今後は再雇用を目的としつつも、アルムナイが悩みを相談し合ったり、ビジネス連携をしたりすることを通じ「元気な街、心豊かな暮らし」という理念の実現を目指す。

評価

従業員が335名と、従業員数千を超える企業と比べて、一人の退職が与える影響が大きい中、退職を促すかもしれない懸念に立ち向かい取り組みを開始した姿勢を評価。 また、グローバル企業や全国規模の企業固有のものと捉えられがちなアルムナイネットワークを、地方に根差した企業が取り組んだこの事例は、他の地方に根差した企業の参考と勇気になる事例として評価。

対談

大英産業を想ってくれている卒業生と、なぜ会社がつながっていないのか

対談のご様子
大英産業 宮地氏(左上)、北野氏(右上)、審査員島田氏(下)

島田:この度は受賞おめでとうございます!アルムナイネットワークを立ち上げたのは今年6月ということで、実は「取り組み期間が短すぎるのでは」という声も審査会ではありました。でも、ゼロからイチにしたタイミングで応募することに意味があると思いましたし、ご自身の体験や気づきから、実際にアクションを起こしている点がすごいと私は思いました。

宮地:「とりあえずやってみよう」が我が社の特徴でもあるので、そこまでの覚悟や深謀遠慮はなかったんです。もちろん人事に関して、とりあえずやってみるという考え方ではよくないのはわかっているのですが、アルムナイに関しては本能的に「これだ」と思ったんですよね。

島田:私は人事のことこそ「とりあえずやってみる」でいいと思っています。なので、大英産業さんの事例にはとても勇気をもらいました。

宮地:当社は社員同士の仲が良いので、「今月いっぱいで卒業します」といったメッセージに対し、思い出話が飛び交うんです。うまく退職できた人とそうでない人がいるという問題もありますが、退職後に話を聞いてみると、いろいろな想いを持ちながら、それでもうちの会社を想ってくれている人が多くいます。

でも、退職後は個人的な社員と卒業生のつながりはあっても、会社としての接点はありませんでした。地域に密着した会社として地域の役に立つことを考えれば、卒業生は戦力でもあるわけです。それなのにつながりがない状態に、ずっとモヤモヤしていました。

島田:何かのご縁があってつながって、同じ目標に向かってそれぞれの力を出し合いながら、一緒に頑張った仲間ですものね。

宮地:とはいえOB/OG会はまた違うよなとも思っていた時にアルムナイを知って、じゃあやってみようと。

そうなった時に、新卒採用をずっと頑張ってくれていて、採用した社員が活躍し、退職する人も出てきている現状に悩んでいる北野さんがいるじゃないかと。これはもう北野さんしかいないと思い、「やろうよ」と声をかけました。

もともと私は事業を引っ張ってきた人間なので、人事施策は結構外すタイプですし、北野さんからも時々「センスないですね」って言われるんですよ(笑)。今回はうまくいってよかったです。

北野:(笑)

「絶対に大英産業がいいよ」と話してくれた、2人の卒業生

島田:アルムナイの方との二つのエピソードがエントリーシートには記載されていましたが、これは宮地さんのご経験ですか?


宮地:そうです。うちの社員がみんなが相談する凄腕の営業パーソンが卒業生の中にいて、「その人に相談したせいで社員が辞めている」みたいな雰囲気が少しあったんです。

でも、飲んだ帰りに偶然彼に会って、帰る方角が一緒だったので話をしたんです。そうしたら「俺、きっと悪く言われていますよね。でもみんなには絶対に大英産業にいた方がいいよって言っているんです」と言うんです。後日改めて連絡をして飲みに行ったら、大英産業の改善点や若い社員が思っていることを一覧にまとめて教えてくれて。

もう一人は、職業訓練校で就職先を探している人に「絶対大英産業がいいよ」と話してくれました。紹介された方は、実際に面接に来てくれたんですよ。

こういった経験を経て、うちの会社への愛を持ってくれて、フラットな声を聞かせてくれる人とつながりたいと強く思いました。もともと退職者との関係性が切れてしまっていたことに課題を感じていたからこそ、響いたところもあるんでしょうね。

島田:アルムナイネットワークの運営をしているのは北野さんですよね。改めて、受賞の感想を聞いてもいいですか?

北野:受賞して、「すごいことにチャレンジさせてもらっていたんだな」と気づかされました。実際にやってみると、走り始めるまでは考えることも多かったですが、いざ始まると楽しい方が大きいなと思っています。

今登録してくれているメンバーは私も知っている方々ですし、同窓会をやった時はただただ楽しかった。「久しぶりで話せてよかった」というアルムナイの声もあり、うれしかったですね。元々社員同士のつながりが深い会社ですけど、卒業後もそういう関係が続いているんだなと実感できました。

今は楽しいだけで終わってしまっているのですが、今後は情報交換など、お互いがwin-winになれるような関係ができたらいいなと思っています。

地域の中小企業が「アルムナイ」に取り組むインパクトは大きい

島田:失礼かもしれませんが、会社名が知られているわけではないこと、どちらかといえば小さいサイズの企業であること、そして地域企業であることの3つにも大きな意味があると思います。日本を盛り上げるためには中小企業や地域の存在がものすごく重要ですから、大英産業さんの取り組み内容はインパクトが大きかったです。

宮地:アルムナイに取り組んでいるのはそうそうたる企業ばかりだと後から知って「うちの規模でやってもいいものか」とも思いましたが、志の問題だろうと。そうやって始めたので、それを褒めていただけるのはうれしいですね。

アルムナイは非常に良いものだと感じているので、地域の他の企業も誘っていけたらいいなと思っています。

島田:大英産業さんが自社のアルムナイのみならず、地域でもっとつながろうとすることを考えていることが広く伝わるだけで、もしかしたら東京からU/Iターンする人もいるかもしれない。地域を盛り上げるものすごく大きな礎になると思います。

北野:中小企業で取り込んでいる事例が少ないということでしたが、中小企業がアルムナイに取り組む上で、期待することがあったらお聞きしたいです。

島田:「期待」はプレッシャーを与えてしまったり、言われたことをやらなければと思わせてしまったりする力があると思っているので、「願い」としてお話ししますね。

大企業だからできることもあれば、大企業だから難しいこともあるし、中小企業もそれは同じです。そういう意味では企業のサイズは関係ないですが、大企業の方が世の中に会社名は知られていますよね。

でも日本の産業の99%は中小企業であり、その多くは地域企業です。そのパワーはものすごく大きなもの。退職者に対して裏切り者だとか、仲間外れにするだとか、そういった文化の企業もあると聞く中、アクションを起こした大英産業さんは本当に素晴らしいと思っています。

私は今回のアワードによって、大英産業さんが広く知られることに意味があると思います。これをきっかけに、大英産業さんの動きがより広がっていくとすごいことが起きるんじゃないかって、勝手に私はワクワクしています。

これから大英産業さんがどういうふうに変わっていくのか、選んだ以上は私たち審査員も良い意味で関わっていきたいと思いますし、引き続き注目していきたいです。

宮地:それはちょっとプレッシャーですね(笑)。まぁ、うちには北野という強い味方がいるので大丈夫だとは思います!本日はありがとうございました。

文/天野夏海

対談者プロフィール

大英産業株式会社
副社長
宮地 弘行氏

大英産業株式会社
人財開発部 広報課
北野 真理奈氏

審査員
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス合同会社
人事総務本部長
島田由香氏