『ジャパン・アルムナイ・アワード2021』で準グランプリを受賞した住友商事株式会社と審査員・服部泰宏氏との特別対談をご紹介します。

概要

アルムナイと役職員の交流を通じ、多様な知見・人的ネットワークを融合し新たなビジネスチャンスを創出すること、企業文化を一層オープンに変えることを目的に「SC Alumni Network」を設立。過去2回のAlumni総会では約100名のアルムナイが参加、社長・役員も登壇し、住友商事の取り組みの紹介、アルムナイによるピッチ、社員を交えた交流や情報交換を行った。他にも、アルムナイへの社内報共有・社内セミナー参加・キャリア採用、オープンイノベーションの場「MIRAI LAB PALETTE」への参加招待などの機会提供も実施。今後はアルムナイネットワークを通じ風土改革、ビジネス連携を生むとともに、アルムナイのセーフティーネットの場を作りを目指す。

評価

商社という風穴を開けることの難易度が高い企業風土の中で、1ネットワークを形成し、2交流の起点を作り、3著名なアルムナイが登壇するという、アルムナイネットワークの型を高度に作り込んでおり、他企業の規範となる。「退職者は裏切り者」という概念を変えていく点で他の日本企業に与える影響を評価。

対談

アラムナイネットワークはトップダウンで始まった

対談のご様子
SC Alumni事務局 茂木氏(左上)、嶋崎氏(左下)、山田氏(中下)、加来氏(右下)、審査員服部先生(右上)

服部:この度は受賞おめでとうございます。僭越ながらさまざまな企業の審査をさせていただく中で、アラムナイが日本企業の中で形になりつつある実感を持ちました。

茂木:やってきたことを整理する良い機会になりました。今後はより一層頑張ってやっていかなければと、改めて気を引き締め直しているところです。

嶋崎:この度はありがとうございます。今は会社と個人の関係が変わっていく節目だと思いますので、そこに向けて我々も注力していきたいと思っています。

山田:今は事務局でアラムナイと共に何かできないか考えているところです。他社の事例も拝見しながら、今後について検討したいですね。

加来:私はオープンイノベーションの場「MIRAI LAB PALETTE」を担当し、アラムナイと社員をつなぐための施策をやっているので、それが受賞の一つの要因になったのだとしたら、個人的にもすごくうれしいです。

服部:住友商事さんの場合、大企業で展開されるゆえのご苦労が背景にはあったのではと思っています。いかがでしょうか?

茂木:2018年に発表した中期経営計画で「新たな価値創造への飽くなき挑戦」というテーマを打ち出しました。開かれた環境でさまざまな人と意見交換をしてこそ新たな価値は生まれるということで、価値創造の重要なパートナーとしてアラムナイにフォーカスし、2019年度に「SC Alumni Network」が設立されました。

もう一つ、大きな経営課題としてD&Iに取り組んできた流れも発足の背景にあります。我々は同質性の高い企業だとずっと言われてきました。裏返せば結束力が高いとも言えますが、多様性がなければ新たな価値は生まれません。そこで多様なアラムナイの皆さんのお力を借りようと考えたのです。

つまり、アラムナイネットワークはトップダウンで始まった話なのです。アメリカから帰国した当時の副社長が「アラムナイをやろう」と、我々のお尻を叩いてここまで来ました。トップの理解があったからこそ、それほどの苦労はせずにやってこれたように思います。

服部先生のコメントの中に『「退職者は裏切り者」という概念を変えていく点で他の日本企業に与える影響を評価』とありましたが、トップ自ら「脱藩の侍ではない」と言ってくれたことで、全体にメッセージが伝わった感覚もありますね。

社員とアラムナイの交流・協業に期待

服部:「アラムナイの活動を紹介する社内イントラを公開予定」とエントリーシートで拝見しましたが、そちらはどのような状況ですか?

茂木:予定通り9月に立ち上げ、「SC Alumni Network」の概要や最近の活動を紹介しています。今後はアラムナイの皆さんからいただいた情報を社員に提供できるよう、準備を進めながら、幅広く社員に向けてプロモーションをしているところです。すでにイントラを見た社員から「アラムナイに相談をしてみたい」といった話も受けており、社員とアラムナイ、双方向の交流の仲介地点になれればと思っています。

今後の課題は、やはり社員とアラムナイの交流です。年に一回総会をやっていますが、幅広い交流ができるわけではないですし、2020年度の総会はコロナ禍で限られた社員しか参加ができませんでした。

幸い、当社には「MIRAI LAB PALETTE」というビジネスクリエーションの場があり、登録した社員は社外の人と意見交換や情報交換ができます。「MIRAI LAB PALETTE」に登録されているメンバーは、社内外含めて約4,000名ほどの規模になってきており、日々いろいろな議論をする場所として定着してきています。

そこのメンバーにアラムナイも参加してもらおうと、この1年間は積極的に声掛けを進めてきました。だいぶ登録者も増えましたし、この場所には「新しい価値を創造しよう」という想いを持った人が集まってきますので、社員とアラムナイで協業が生まれるといいですね。

さらに言えば、アラムナイの方に社外の方をぜひ連れてきていただきたいです。もともと社外の人とビジネスを創出することをコンセプトに作られた場所なので、社外と社内をつなぐ媒体の意味でも、アラムナイの皆さんに期待しています。

外で活躍するアラムナイを知ることで「辞めた人」への意識も変わる

服部:住友商事全体として、アラムナイの取り組みをポジティブに受け取っている印象を受けました。アラムナイネットワークができたことで、社員の皆さんにどのような意識の変化があったのでしょうか?

茂木:20〜30代の若手社員にとっては、辞めた社員とつながり続けるのは当たり前の感覚のようです。アラムナイネットワークの有無に関係なく、普通に友達なんですよね。頼もしく感じています。

実際にアラムナイネットワークに登録していないアラムナイが、在籍時に所属していた部の上司や同僚とつながっていたことをきっかけに、キャリア採用に応募してくれた例も出てきています。アラムナイネットワークを通じた関係性はもちろんですが、インフォーマルなつながりからの再入社もこれからは増えていくように感じていますね。

服部:40〜50代の社員の方はいかがでしょう?

茂木:やはり「何で辞めるんだろう」というふうに見てしまう面はありますね。若者の退職が増えていることへの危機感もあって、「これからなのに」という気持ちが先に来てしまう。

ただ、トップも自らがアラムナイネットワークについて説明をする中で、だいぶ意識は変わってきたように感じています。外で活躍するアラムナイの姿を積極的に社員に示すことで、アラムナイへの見方はより変わっていくのだろうという感覚もありますね。

実は私達が属するキャリアデザインチームは、シニア向けのセカンドキャリア支援を目的としてスタートした部署。再就職支援をサポートしていますが、アラムナイネットワークが一つのセーフティネットになったらいいとも思っています。

昭和の世代のシニアにとって、外に出て新しいことをやるのは怖い感覚がある。そういう時にアラムナイネットワークを通じて住友商事とつながり続けられれば安心できますし、住友商事のリソースを自身のリソースとして位置付けられます。シニアにこそ、アラムナイネットワークに頼ってほしいですね。

服部:転職でキャリアチェンジをしていたり、元の会社に再入社したりといった事例を見れば見るほど、それが当たり前のことになっていく。シンプルだけど重要なことで、私はこれを「意識のインフラ」と呼んでいます。身近な成功事例が増えていけば、上の世代の方々の感覚も少しずつ変わっていくように思いました。

「外に出やすい」と「ここで働きたい」を両立させる必要がある

服部:やや抽象的な質問ですが、辞めた後も含めて、住友商事が描く人と会社の関係よはどのようなものでしょう? 今回の事例は、人と会社のこれからの関係性に対して、一石を投じていただいたような気がしています。

茂木:外部に標榜しているのは、昨年度に掲げたグローバルマネジメントポリシーに書いてあることが全てです。理念やビジョンに共感をし、高い志をもって自律的な成長を続け、プロフェッショナリズムを追求する。そういう人材がいる組織を作っていきたいと思っています。

茂木:一方では、キャリア自律を実現し、価値創造ができるプロフェッショナル人材が働きやすい「Great Place to Work」を我々は用意しなければなりません。その上で、ぜひ挑戦の場所として、住友商事を選んでほしいと考えています。

これからの社員と会社の関係性は、対等な関係になるのだろうと思います。一方的に仕事をアサインするようなことばかりやっていては、もう駄目なのでしょう。世界に人材を輩出する組織を目指してもいますので、社内にとどまることだけを前提にもしていません。

3月のアラムナイ総会では、「当社にいる・いないに関わらず、同じ会社で仕事をしてDNAを共有した者同士が、経験や知恵を共有し、さらに刺激し合うことによって新たな価値を創造し、社会に貢献していく。そういう世界を我々は夢見ています」という話が執行役員からありました。

その世界を私たちも早く実現したいですし、キャリア自律を奨励する以上、人材の出入りが自由になるのも当然のこと。転職によってスキルアップした人たちを前向きに送り出し、「また戻って来てね」と言える会社にしていきたいですね。

服部:別れてからも関係性が続く状態と、別れたら最後な状況では、一期一会の意味合いもだいぶ変わってきますね。

茂木:そう思います。そのために人事制度も変え、職務をベースに等級を決める評価制度も導入しました。これからは一定の退職者が出ることは当然として、人材マネジメントを考えていかなければと改めて考えているところです。

もちろん住友商事が選ばれなかったという意味で、退職はショックです。だからこそグローバルマネジメントポリシーに「選ばれ続ける組織を目指す」とも明記しています。

服部:人と会社が対等になり、個人がプロフェッショナルになるということは、外に出やすくなることでもあります。そのような中で住友商事さんは、だからこそ社内を魅力的にし、いろいろなチャンスを与えようと挑戦されている。

外に向かうベクトルを会社が与えずに、いかに内に囲うかという昭和のモデルから、外に向かうベクトルを与えつつも、内側も良いものにするという新しいモデルを見せていただいた気がします。

外へのベクトルと内へのベクトル、この二つを企業が同時に掲げるような世の中にこれからなっていくのだろうと思いますし、私自身もそういうスタンスの企業が増えたらいいなと思いますね。

文/天野夏海

対談者プロフィール

住友商事株式会社
人事部 キャリアデザインチーム
茂木敏男氏

住友商事株式会社
人事部 キャリアデザインチーム
加来依子氏

住友商事株式会社
人事部 キャリアデザインチーム
嶋﨑慎太郎氏

住友商事株式会社
人事部 キャリアデザインチーム
山田圭祐氏

審査員
神戸大学大学院 経営学研究科 准教授
服部泰宏先生