『ジャパン・アルムナイ・アワード2021』でグランプリを受賞した経済産業省OBOG会の共同発起人のおひとりである栫井 誠一郎氏と島田由香氏との特別対談をご紹介します。

概要

国をよくするためには官民協創が重要と考え、官民の垣根を壊す場を創出することを目的として、経産省OBOG会、霞が関アラムナイを設立。公務を行っている省庁がアルムナイネットワークの設立を行うことは憚られる等の課題から有志で設立。

官民癒着の誤解を受けないよう「自己の利益のためではなく、公共政策に貢献するためにつながる」という点に配慮。 その設立目的から、アルムナイ同士の連携だけでなく、省庁現役とも適切な距離を配慮しつつ連携することで「アルムナイは国への想いを失ったからやめるんだ」という誤解を払拭し、さらに省庁現役にとって民間の視点を得る貴重な情報源としての活動なども実施。

また、民間から省庁にカムバックした人が連携し、内側から垣根を崩すためのRevolver会も設立。 今後はアルムナイネットワークを通じて、より垣根のない社会、より「ビジネス性」と「社会性」の両立が実現される社会へと発展していくことを目指す。

評価

「国をよくする」という現役・アルムナイを通じた軸となる不変の想い、有志でありながら省庁も連携する有機的な関係構築、官民癒着の疑いを払拭しつつ交流を図る適切な距離感の作り方、省庁におけるアルムナイという固い壁を壊した難しさへの挑戦とそれが社会に与えるインパクトの大きさ、具体的な成果、それらいずれもが素晴らしく、総合的にでも極めて高い点を評価し、グランプリに選出。

対談

民間企業以上の先進的な取り組みを、経産省が行う衝撃

島田:審査会では「グランプリは経済産業省OBOG会」と満場一致でした。

私がグランプリに値すると思った理由は二つあって、一つは、驚きがたくさん詰まっていたこと。国民である私たちは固定概念として、行政に対して堅い印象や変わらないイメージを持ってしまいがちです。そういう中で経産省や霞ヶ関が民間企業と変わらないかそれ以上に先進的な取り組みを行っているのが衝撃でした。

もう一つは、ネーミングです。経産省の略称「METI(Minister of Economy, Trade and Industry)」と「辞める」をかけて『YaMETI(ヤメティ)の会』は最高!行政の方が辞めることは、もしかすると民間企業以上に大変なのかもしれないですが、その雰囲気すら変え始めていることが素晴らしいと感じました。

栫井:ありがとうございます。『YaMETIの会』という名称は、経産省を辞めた後に飲んだノリで作ったもの。経産省に限らず「辞める」という言葉はネガティブに捉えられかねないと思い、参加者が100人近くなった頃に『経済産業省OBOG会』に変更してしまいましたが、お褒めいただきうれしいです。

僕は、行政のことしか分からずにどういう政策を打ったらどのように世の中に響くかイメージが持てない公務員に対して、民間と行政の両方を経験している人が通訳し、間を取り持っていけたらいいなと思っているんです。

これをバイリンガルにかけて『パブリンガル』と呼んでるんでいるのですが、行政を卒業して次のステージに進んだ人をパブリンガルとして、ブランディングしていけるといいなと思っています。

そして実は僕、島田さんのファンなんです。対談の機会をいただけて光栄です!

島田:それは超嬉しいです、ありがとうございます! 官民の垣根がない官民共創、栫井さんたちなら本当に実現するんだろうなと思えますし、そういう意味でもエネルギーをもらえると感じました。栫井さんは今どのようなことにご興味があって、何を目指して燃えていますか?

栫井:大きく三つを掛け算して、人生をかけて盛り上げようとしています。

一つ目は、今回受賞した経済産業省OBOG会。これは完全に有志団体としてやっています。経産省主導の組織にしてしまうと、いろいろな誤解を受けかねないので、あくまで卒業生が勝手にやっている団体として存在しています。

経済産業省OBOG会はあくまでもゆるくつながる会で、積極的に現役とつながりたい人のみ、同意を取った上で連絡先や得意分野などをリスト化し、現役にも公開しています。

二つ目は、代表を務めるスタートアップでの官民連携支援です。官民連携のプロジェクトや政策は、コミュニティやイベントで交流しているだけではなかなか進まないので、そこの連携支援を行っています。

そして三つ目が、一般社団法人での官民連携推進。霞が関にある不動産会社が、再開発で官民連携拠点となる大きなビルを虎ノ門に建設しています。2026年に完成予定で、ソーシャルイノベーションや官民連携をがっつりやっていくべく、それに向けて彼らと一緒に一般社団法人を立ち上げ、現在も霞が関でテスト的に活動を進めています。僕は事務局長を務めています。

島田:面白そう!聞いていて、すごくワクワクします。

官から民、民から官の循環が必要

対談のご様子
経済産業省OBOG会共同発起人栫井氏(左)、審査員島田氏(右)

島田:話が少し逸れてしまうのですが、私は地域で自治体の皆さんごご一緒させていただいたり、政府や行政の委員会などの場に呼んでいただくようになって、想像以上に素晴らしい方たちがたくさんいることに気づきました。地方公務員にも優秀な方が大勢いて、でもその強みや素晴らしさを思いっきり表現できるようなチャンスを得られていないことも多いんですよね。霞ヶ関の皆さんから転職の相談を受けることもあるのですが、「自分はこれができる」「こんな強みがある」と言えない方も多いんです。

これだけ優秀な方々がそのような状況にあることに対して、私はもどかしく感じています。そういう意味合いも含めて、アルムナイネットワークの卒業生を通じて官と民がつながり、霞ヶ関の皆さんが持つ知恵や知識が民間に伝わるのは素晴らしいこと。日本は本当に良くなるだろうなと感じるんです。

栫井:ありがとうございます。行政が思っていることがブラックボックス化してしまっては世の中の役に立てなくなってしまうので、官民連携できる人を創出していく必要があると思っています。

官をやめて民に行くという一方通行だけではよくないと思っていて、今は民から官への中途採用の流れが生まれつつありますが、僕はそれも盛り上げて官民のキャリアの循環をさせたいんです。そのためには年功序列を始め、さまざまな慣習を変えていく必要もあるでしょう。

霞ヶ関を辞めて再度戻る人の輪を広げることにも力を入れようと、カムバックした人が集まる『Revolver会』を他の方とも一緒に立ち上げ、今は10人ほど加盟してくださっていますが、慣習が変わればその動きもさらに加速するはず。そうなったら「この活動をやっていて良かった」と再び思えるんだろうなと思っています。

「国ができるなら民間もできる」という波が生まれるといい

島田:最後に改めて、栫井さんは今回の受賞をどのように思って、それをどういうふうに仲間にシェアしたのでしょう? 経済産業省OBOG会や現役の皆さんの反応もぜひ教えてください。

栫井:飲んだノリで有志団体を作ったのが約10年前で、いつの間にか約150人に参加者が増え、アワードでグランプリも受賞できて、本当にやってよかったです。

受賞したことをFacebookに投稿したんですけど、経産省の現役メンバーを含めて、たくさんの「いいね」がつきました。経済産業省OBOG会のグループにも投稿しましたが、他の投稿よりも明らかに反応はよくて、現役もアルムナイも、みんな歓迎してくれていることがわかったのがうれしかったですね。

実はエントリーする時に、「有志活動なのに経産省がやっているかのように見えるのはよくない」という意見が出るかもしれないと、少し懸念していたんです。だから余計に、応援のメッセージばかりだったことが心に沁みました。

この手の取り組みに関して、民間に比べて行政はよほど遅れているという自覚は公務員にもあるので、民間企業と一緒のアワードでグランプリになったことは「本当に1位!?」と、みんなにとってもサプライズになったようです。

島田:今回のグランプリ受賞をきっかけに世の中で広まることで、「国をもっと良くしていきたい」という志を持つ皆さんの活動にさらにつながっていく。このグランプリには本当に意味があると思っています。

栫井:経産省のアルムナイが今以上に市民権を得て、堂々と官と民が循環する社会に向けて活動がしやすくなったのはもちろんですが、「国ができるなら民間もできるよね」という波が生まれるといいなと思っています。クールビズしかり、国が動くことで大手企業も続くケースは多くあるじゃないですか。そうやってこの動きが民間企業にも広がってほしいです。

島田:アルムナイというものの可能性を、今回の受賞はものすごく広げるものだと思います。そして、こうした活動を通じて「日本がもっとよくなりそうだ」「面白いことが起きそうだ」という夢や希望を与えるのは、とても大事なこと。個人的にもこれから栫井さんがやろうとしていることにすごく興味があるので、私にもぜひ何かやらせてください!

この度はグランプリ受賞、本当におめでとうございました!

文/天野夏海

対談者プロフィール

経済産業省OBOG会共同発起人
株式会社Publink 代表取締役
栫井 誠一郎氏

審査員
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス合同会社 人

事総務本部長
島田由香氏