『ジャパン・アルムナイ・アワード2022』でグランプリを受賞したみずほフィナンシャルグループダイバーシティ・インクルージョン推進室十川氏、薄田氏と、準グランプリを受賞した三井住友海上火災保険株式会社人事部人事チーム中島氏、株式会社臨海人事部小島氏、小野氏、アルムナイ研究所研究員の土橋によるパネルディスカッションを行いました。

本記事では、その内容をご紹介します。

アルムナイネットワークはボトムアップの取り組み

土橋:どのようにアルムナイネットワークを立ち上げたのでしょうか。

中島:弊社では管理職に占める社外カルチャー経験者比率をKPI化しています。具体的には、中途採用者と出向経験者等を合わせて、2025年度末までに管理職の社外カルチャー経験者比率を30%以上にするという目標です。アルムナイもまた、当社を知る貴重な社外カルチャー経験者ですので、アルムナイの取り組みの方向性について会社と一致したことで、経営陣からもスムーズに理解が得られたのだと思います。

弊社の場合、「まずは動かしてみよう」というスタンスでやってきました。


小島:「アルムナイって知ってる?」と部長から声をかけられたことからスタートし、私が発起人として進めてきました。

当社はボトムアップの色が強い会社であり、社員がやりたいと言ったことに対しても前向きです。最初はメーリングリストやInstagramなど、お金をかけないやり方で進めていたこともあり、「駄目だったら撤退しよう」という感じでした。

十川:弊社の特徴は、ダイバーシティ・インクルージョン推進室が事務局を担っている点にあると思います。魅力的なアルムナイとのつながりを持つことで、組織の枠を超えてダイバーシティ&インクルージョンを推進し、企業の成長に活かす。そんな発想で、当時の室長と私で立ち上げました。

アルムナイネットワークの目的は「知見の拡大」「ネットワーキング」「人材・ビジネス連携」の3つですが、新たな取り組みということもあり1つに決め打ちせずトライ&エラーをしながら取り組みを進めてきました。

土橋:各社ともボトムアップで始まった動きだったのですね。事務局の構成や業務量についても教えてください。

中島:現在、事務局は企画を牽引した人事部の課長と私の2人です。限られたメンバーで運営しており、私は主に事務面を担当しています。

小島:事務局は人事部のメンバー4名です。月に1〜2回の頻度で、アルムナイネットワークの現状や今後の計画を確認しています。通常業務と並行して行っているので、タイミングを合わせながら、アルムナイに関する仕事を行っています。

十川:3名体制で運営しています。全員他の業務と掛け持ちをしながらなので、我々は企画運営をメインにやりつつ、細かい部分はアルムナイネットワークのシステムを提供していただいているハッカズークさんにサポートをしてもらっています。

退職リスクよりも、得られるものの方がはるかに大きい

土橋:アルムナイの取り組みをやる際、「退職を推進してしまうのではないか」という懸念の声があがることも多いです。その点はどう考えていましたか?

十川:正直にいえば、当初は賛否両論ありました。アルムナイという言葉自体の認知度が低かったですし、「アルムナイとつながる意味があるのか」「社員の遠心力が働いてしまうのではないか」といった声があったのは事実です。

その一方で、「社外とつながり、連携しながら、新たな発想を取り入れていくべき」といった前向きな声も多くありました。まずは共感してくれる社員や部署を巻き込みながら、共感の輪を広げていくことを地道にやってきたと思います。イベントなどへの反響を社内にフィードバックすることを積み重ねていく中で、社内の理解も広がってきたと感じています。

実際にやってみると、「アルムナイから刺激をもらった」「視野が広がって、自分はもっとみずほのフィールドを生かせると思った」「見える景色が変わった」といった社員の声が非常に多く、環境を変えるというよりは、自分の意識を変えることへの関心が高まったように思います。

組織全体として、アルムナイネットワークによる退職リスクよりも、得られるものの方がはるかに大きいのが実感です。リスクを過度に意識して、何もしないことの方が大きな機会損失をしているような気がします。

中島:同意見です。アルムナイを導入して得られるメリットの方が大きいと考えており、そこへの理解が得られたからこそ、大きな障壁なくアルムナイネットワーク導入を進めることができたと思います。

小野:私は退職手続きなどの対応をしていますが、アルムナイネットワークを始めてから退職者が大きく増えた感覚はありません。アルムナイネットワークが退職を推進するわけではないという実感はありますね。

小島:最近では、むしろ退職をウェルカムな状況にしていってもいいのではないかという話もしています。

弊社は学習塾を運営している会社です。人材の流動化や若年層の人口減を考えると、働きながら社員が学べる環境を提供し、社員がステップアップすることを応援する姿勢が必要だと思っています。ステップアップの一つが転職ですから、そう考えれば退職は必ずしもネガティブなものではありません。そんな企業風土を意図的につくるという考え方もあるのではと思っています。

事務局が関与せずとも、アルムナイ同士の交流が生まれている

土橋:アルムナイネットワークで、アルムナイ同士のコミュニケーションはどのような感じで行なわれているのでしょうか。

小野:定期的にオフ会を開催しています。「ビールが好きな人で集まりましょう」や「女子社員で集まりましょう」といった、参加のハードルを下げた企画をメインにすることで、気軽に話しやすい環境をつくる試みをしています。オフ会の様子はアルムナイネットワークで共有しているので、和気あいあいとやっていることが伝われば、参加のハードルはより下がっていくのではと思っています。

オフ会をきっかけに、アルムナイの方がアルムナイネットワーク内に、主体的にチャットグループを作ってくれました。それによってアルムナイ同士のやり取りが活発になったのを感じています。アルムナイが立ち上げたチャットグループをきっかけに、これまで交流がなかったアルムナイ同士が対面で会うなど、新たなつながりが生まれています。

事務局を通さずにそのようなコミュニケーションが発生しているのは、アルムナイネットワークやイベントに参加しやすい環境をつくろうと意識してきたことに要因があるのかなと思っています。

また、アルムナイの方がアルムナイネットワークで発言をしてくれた時には、何かしらの反応をすることも心がけています。コメントにいいねを押すなど、アルムナイの方の発信に事務局が関心を持っていることをお伝えするのも大事かなと思います。

薄田:アルムナイサポーターの方がアルムナイネットワークをうまく盛り上げてくれています。最近はアルムナイネットワーク内で気軽に発信をしてくださるようになり、それに対してのリアクションも多く、私たちが知らないところでアルムナイ同士がつながっているのを感じています。

中島:弊社も同じく、アルムナイサポーターの方が盛り上げてくださっています。チャットグループを作って共通点を持つ人が集まるなど、事務局が関与しないところでアルムナイ同士が積極的につながっているのをうれしく感じています。

その年度入社の登録者が多い場合は「〇〇年入社集まれ」といったチャットグループが作成されており、同期同士のつながりが復活しているようです。

近年、コロナ禍で新卒入社者の合同研修ができなくなり、2020年度以降は家からZOOMで研修を受けてもらっていました。そういった若手のアルムナイがアルムナイネットワークを通じて、当時得られなかったつながりやコミュニケーションを新たに得る機会になるかもしれないと期待しています。

土橋:現役社員とアルムナイの交流や連携について、事務局として気をつけていることはありますか?

薄田:弊社では、社員が特定のテーマで集まり活動をする「ERG(社員リソースグループ)」とコラボレーションをし、社員とアルムナイのトークセッションを行ってきました。

参加してくださるアルムナイの方はアルムナイネットワークで募集をしているのですが、その際に心がけているのは、橋渡し役として、社員とアルムナイの距離を縮める工夫をすることです。不安がないよう、募集の際は企画者の社員の顔が見えるように、写真と一言コメントを付けています。

若手社員が集まるERGとアルムナイのコラボイベントでは、結果的にベテランのアルムナイの方が参加してくださいました。これからのみずほを支える現役社員と、社会をよく知るベテランアルムナイの方との対談が実現し、とても良い会になったと思っています。

そうやって一度交流を持った現役社員とアルムナイの中には、事務局を通さずにつながり、イベント後もコミュニケーションを取っているケースもあります。そういった例は本当にうれしいですね。

事務局の想いがアルムナイネットワークの原動力になる

土橋:参加者の皆さんはアルムナイネットワークを立ち上げることに関心のある方々だと思います。最後にメッセージをいただけますか?

中島:今の時代、開かれた会社であることが重要なのだと思っています。弊社が目指す会社像に近づくために、社外の多様な知見を取り入れようとしていることを、人事部から社内外に発信をする。会社がオフィシャルにアルムナイの取り組みを行うこと・発信し続けることは、そんなメッセージでもあると思っています。

そうして、「自分も変わらなければ」というマインドが社員に生まれ、一人一人が良い方向に成長していき、カルチャー変革につながるとよいですよね。

小島:仕事において事前に計画を立てたり目標を掲げたりするのは前提ですが、アルムナイの取り組みは走りながら考えることが必要だと思っています。

会社の理解を得るには、何かしらの実績が必要ですので、やる中でそれを見つけ、地道にアピールし続けることが重要だと思います。

小野:当初は「退職をしてから臨海とやり取りができると思わなかった」というアルムナイの声もありましたが、そういう会社が変わろうとしているメッセージを伝えるのがアルムナイネットワークなのだと思います。

薄田: 私は2022年4月にアルムナイ事務局にジョインしたのですが、社内のアルムナイへの関心の高さを感じています。全社員が見られる社員名簿の担当業務に「アルムナイ施策」と書いたところ、面識のない社員も含め、「アルムナイとこういうことはできますか?」など、いくつか問い合わせをいただきました。

これからアルムナイの取り組みを始める企業にも、社内にはアルムナイやダイバーシティに関心がある人がきっといると思います。そういった方たちにアプローチをしながら進めていくといいのではないでしょうか。

十川:アルムナイの取り組みは、人と人との新たな関係性をつくっていくものなので、すぐに結果は出にくいと思います。

だからこそ、事務局の想いが原動力になると思います。想いを起点に、社内外に取り組みの輪が広がっていきますので、熱を冷まさず、継続して取り組む必要があります。

そして、アルムナイと一緒につくっていくことが大切です。片思いではなかなか続きませんから、アルムナイのニーズを聞きながら、我々からも発信をし、多くの人にとって意義あるネットワークにしていく意識が重要だと思っています。