第1回 アルムナイ実態調査レポート/研究員・山崎涼子の所感

第1回 アルムナイ実態調査レポートについて、アルムナイ研究所の研究員・山崎涼子の所感を紹介します。

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研究員・山崎涼子の所感

2020年7月、アルムナイ研究所に参画した頃、私は、企業人事として職務に向き合う中で、社会環境の変化や人と組織の関係性の変化を少しずつ感じ始めていました。

具体的には、働く個人の価値観が多様化し、選択肢も多様化しつつあること、それによって、雇用関係の認識にも変化が生じ、企業との雇用関係自体もその選択肢の一つになりつつあるということです。

終身雇用モデルは解体途上にあると言われ始めました。

企業の立場から考えても社員を囲い込むことはより不可能となり、市場にある人的資源をどう生かすか、どのように社員のキャリア形成をサポートし、企業との間に信頼関係を醸成するかが重要となってきます。

つまり、個人の選択肢が多重化していく中で、どのように自社へのコミットメントを引き出すか、選ばれ続けるためのエンゲージメントの向上が求められるとも言えます。

このような変化に対応し、働く個人にはさらに自律性が求められるようになってきます。

そういった個人にとっても、コミュニティが拡大することによる多様な人との関わりが、自分自身のキャリア形成を考える一助になるかもしれません。

このような背景から、アルムナイは企業にとっても個人にとっても互いにメリットを享受できる仕組みになりうるのではないかと考えていました。

しかし一方で、この取り組み自体がまだまだ日本企業の主流になっていないのはなぜなのか、それには日本の文化、企業の個々の文化や、企業におけるマネジメントの在り方が影響しているのではないか、そういった仮説・考えを起点に、研究活動を行ってまいりました。

研究活動において、多様な業種でアルムナイに関わる方々にインタビューを実施させていただきました。

当初、高い専門性が求められる企業群であることや上司による良好な退職マネジメントが機能していること、柔軟性の高い風土や文化が醸成されていることなどが、アルムナイの成立要件なのではないかという個人的な仮説がありました。

しかし、決して単純にパターン化できるものではなく、インタビューを通した分析からはさまざまな示唆と可能性を得ることができました。

例えば、成功・失敗事例もさまざまなパターンがあり、人事がいかに綿密に設計しても継続が難しくなるケースもあれば、自然発生的なものから持続性高く運営されているケースもありました。

退職者とつながる、というプロセスは企業にとっては未知の取組みですので、企業規模であったり、企業文化によっては、ガバナンスやリスク観点を重視することも当然であり、検討に時間を要しているケースもありました。

一つのポイントはやはり人と組織を重んじる企業文化にあり、また、企業それぞれにおける重要因子が何らかの形でアルムナイ形成とつながっているということが見えてきたように思います。

しかし一方で、企業それぞれに正解の形があるということは、モデルケースとしての一つの正解を創ることが難しいことだと言えます。この点はまだまだ深掘りできる余地があり、多角的な観点から継続的な検証が必要です。

新型コロナウイルスの感染症の予防によって、働き方の変化が大きく進みました。今後さらに加速するであろうテクノロジーの進化は、メリットが大きい反面、ともすれば組織や社会におけるつながりや、人間関係が失われるリスクもあると考えます。

今こそ、ネットワーキングや、コミュニティ活動の有効性を検証する意義があると考えており、今後も研究を通して知見を蓄積し、あらゆる企業が検討のスタート地点に立てるような示唆を提供していけるよう努めてまいりたいと考えております。

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