第1回 アルムナイ実態調査レポート

アルムナイの取り組みが、急速に広まりつつあります。しかし、歴史の長い欧米などに比べ、まだ日本においては端緒についた試行錯誤の段階だとも言えます。

アルムナイは、どのような理由や経緯から検討が開始され、設立され、運用されているのか。あるいは、どのような理由で導入に至らないのか。その道筋を明らかにするため、アルムナイ研究所では調査を実施いたしました。

調査手法としては、アルムナイ成立と継続のリアルな実態を明らかにするため、当事者の「語り」を重視する半構造化インタビュー形式で実施するとともに、分析はその成立・継続のプロセスを解明することを目的として複線経路・等至性モデル(TEM)を簡易的に使用しました。

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●調査方法:インタビュー調査
●調査概要
 ・期間  :2020年11月〜2021年6月
 ・対象者 :企業アルムナイの立ち上げあるいは活動に関わっている方々
 ・調査実施:アルムナイ研究所
●分析方法:複線経路・等至性モデル(TEM)を簡易的に使用

※個々人がそれぞれ多様な経路を辿っていたとしても、等しく到達するポイント(等至点)があるという考え方を基本として、人間の発達や人生経路の多様性・複線性の時間的な変容を捉える分析・思考の枠組み

1. 概要

本レポートではアルムナイネットワーク導入に至るまでの課題(分岐点)が大きく以下の3点あることと、それらへの対応の方向性を明らかにしています。

  • 担当者が導入の検討を開始する段階
  • 決裁者が承認する段階
  • 社内が受容する段階

また、導入に至った(あるいは至らなかった)形態として「対象者制限を設けず導入」「対象者制限を設けての導入」「導入に至らず」という3つのタイプがあることが判明しました。

図1:分岐・収束の概要
図1:分岐・収束の概要

2. 担当者が導入の検討を開始する段階

ここでいう担当者は、人事部門に加え新規事業部門、経営企画部門、社内有志といった幅広い部門に属する社員を含んでいます。

まずアルムナイネットワークの導入を決断する担当者の共通要素として、多様な価値観や雇用の流動性を受容するに至る「明確な原体験」を持っていることが明らかになりました(図2)。具体的には、以下のような事例が挙げられます。

  • 海外駐在において、現地社員が会社に対して好意を抱きつつも、自身のキャリアアップの機会を優先し退職することを経験した。
  • 外国人の採用において、外国籍人材が会社に対して好意を抱きつつも、自身のキャリアアップの機会を優先し退職することを経験した。
  • 外資系企業との合併を経て、異なる企業文化の背景を持つ人材との交流を経験した。

次いで、事業環境の大きな変化に伴い、人事・組織課題が発生したことがアルムナイ設立の「引き金」になったことが明らかになりました。具体的には以下のような事例が挙げられます。

  • 優秀層の流出による人材の空洞化
  • 新規事業開拓を目的とした、これまでの人材の要件に収まらない「異能人材」獲得の必要性      
  • 環境変化に適応できず自律的にキャリアを形成する意識の低い状況への危機感

上記に対して、アルムナイネットワークの組成が「カムバック採用」「外部知見の獲得」「社員刺激策」として有益と判断されるに至ったことが判明しました。

図2:担当者導入判断による分岐
図2:担当者導入判断による分岐

3. 決裁者が承認する段階

担当者によるアルムナイ設立の提案に対しては、人事・組織課題への対応策として有効だったり、費用対効果が認められたりする場合、承認に至る確率が高まる一方、決裁者自身が「定年を待たずに離脱した者は裏切者である」という認識を持っている場合は、たとえその有効性が示された場合でも否認に至る事例が見られました。

一方、決裁者が多様な価値観や雇用の流動性を受容するに至る「明確な原体験」を持っている場合は承認の確率が高まることが判明しました。

図3:決裁者判断による分岐
図3:決裁者判断による分岐

4.社内が受容する段階

決裁者による承認を得たとしても、在籍時の社内での関係性や退職時の振舞などの要因によって社内からアルムナイ導入への強い懸念が示される事例も、以下の2つのタイプとして表れました。

特に懲戒解雇者などのネガティブな辞め方のアルムナイとの退職面談を実施してきた層で強い懸念の傾向が見られました。

  1. 早期退職制度利用者や懲戒解雇といった、定義や判断基準が見える化したOBOGに対する懸念

この場合は、アルムナイネットワークへの入会資格を明確に定めることで解決した事例がありました。

  1. 会社に対して意見が否定的と思われるOBOGへのネガティブな反応といった、定義や判断基準が属人化し見えにくい場合

この場合は、まずは少人数規模で質の良いアルムナイを設立し、徐々に対象を拡大するといった解決事例がありました。

図4:非好意的なアルムナイと繋がる懸念による分岐
図4:非好意的なアルムナイと繋がる懸念による分岐

その他にはアルムナイの存在を社員が認知することによって、社員の退職意欲が促されるのではないか、という懸念も複数事例で確認しました。これに対しては、アルムナイ導入のメリットが社員の退職リスクを上回ると判断された場合はアルムナイ組成に至りました。

また、たとえリスクが高いと一旦は判断された場合も、まずは社員とアルムナイの交流を限定的にして様子を見るといった解決策を行った事例がありました。

図5:社員退職を促す懸念による分岐
図5:社員退職を促す懸念による分岐

4. まとめ

上記のように、第1段階(担当者による検討開始)と第2段階(決裁者の承認)では、原体験の有無や退職者に対する認識といった「属人的」な因子と、人事・企業課題といった「属組織的」な因子の双方が影響していることが明らかになりました。

また、第3段階(社内での受容)では、想定されるリスクに対してネットワークや制度の設計・運用などの柔軟な対応によって解決することができ、属人的・属組織的な要素を回避できることが明らかになりました。

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