第2回 アルムナイ実態調査レポート

日本社会においても企業・団体公認のアルムナイネットワークの設立および活動が年々拡大を続けています。
 第1回アルムナイ実態調査レポートでは、端緒についた日本のアルムナイ成立と継続の実態を明らかにするために、アルムナイネットワークの立ち上げあるいは活動に関わっている方々へのインタビューを実施いたしました。 第2回となる今回のアルムナイ実態調査レポートでは、アルムナイネットワークに参加している個人に注目しアンケート調査を実施しました。
 得られた調査結果をもとにキャリア観や転職経験などの分布分析、個々人のキャリア観・働くうえでの重視事項・アルムナイネットワーク内での体験とアルムナイネットワークに対する評価の相関分析を実施しています。

>>所長・酒井章の所感
>>研究員・土橋隼人の所感
>>研究員・黒丸修の所感

●調査方法: アンケート調査
●調査概要
 ・期間 :2022年6月〜2022年7月
 ・対象者:企業を中心とした団体アルムナイネットワークに参加しているアルムナイおよび現役社員
 ・調査実施:アルムナイ研究所
●分析方法:相関分析を中心とした統計的手法

1.概要

企業のアルムナイ(退職者)ネットワークに参加しているアルムナイおよび現役社員に、職歴・キャリア観・アルムナイネットワークへの受け止め方などに対するアンケート調査を実施し、421名から回答を得た。

2.分布

 以下に回答者の代表的な属性とその分布を示す。

1.1.世代

図1.世代分布

世代分布においては、30代・40代・50代が多くを占めているが、10代・20代の若手、60代以上のシニア層も参加している。

1.2.転職経験

図2.転職回数分布

 転職回数は1回を最大値として、回数が増えるごとに比率が低下する。

1.3.現在の職業

図3.現職分布

現職分布は、営業・販売層に次いで、経営者・役員の経営層が多い点が特徴となっている。

2.世代毎の特徴

 本章では、アルムナイネットワークに参加している層の世代別のキャリア形成観、転職回数の特徴と、特徴に影響を与えている因子について考察する。

2.1.世代とキャリア形成観

 ここでは、世代とキャリア形成観の相関関係を調査した。キャリア観については、「出来るだけ1社で働きたい」「わからない」「必ずしも1つの会社にこだわらず働きたい」「いくつかの会社を経験したい」「将来は起業したい」のいずれからから選択してもらった。

図4.世代別キャリア形成観

 「できるだけ1つの会社で働きたい」層は世代が上がるにつれ高まり50代でピークを迎える。これは年齢と共に終身雇用型のキャリア観が強くなることに起因していると推測される。

 世代と共に比率の増していた「できるだけ1つの会社で働きたい」層が60代以上になると減少する。また、「わからない」層が50代で急激に高まる。この要因として定年退職が影響している可能性がある。50代を迎え定年退職が近づき、1社で継続的に働き続けること困難であることを意識しはじめることが影響していると考えられる。また、60代を迎え、定年退職あるいは再雇用上限年齢後も継続して働きたい層が、転職を視野に入れていることも影響していると思われる。

2.2.世代と転職回数

図5.転職回数と年齢

 世代別の転職回数を見ると、転職「0回」は20代から40代までは年齢と共に低下するが、40代を過ぎると年齢とともに上昇する。これは世代間によるキャリア転職機会の差によるものと推測される。

若年層は年齢・経験と共に転職機会が増すため、転職回数も年齢と共に増加する。

一方でシニア層が若かったころは、本人の終身雇用意識が高かったと同時に転職市場も今と比べて小さく転職機会が少なかった。また現在においてもシニア層の転職市場は若手の市場に比べて小さいため転職機会は少ない。この傾向は世代が高くなるほど強い。

図6.世代における転職回数の変化要因

 この若手層とシニア層それぞれの転職機会傾向が影響し、転職「0回」の分布をV字にしているものと考えられる。

3.アルムナイネットワークの評価との相関関係

 本章では、アルムナイネットワークに対する評価と各因子の相関関係について報告する。

 アルムナイネットワークの評価は、「アルムナイネットワークの取り組みについてどのように考えているか」について、「大変良い」「よい」「どちらでもない」「あまりよくない」「よくない」で回答を求めた。

3.1.アルムナイネットワークの評価とキャリア形成観

各キャリア形成観の層毎に、アルムナイネットワークの評価の平均値を求めた。

図7.各キャリア形成観層とアルムナイネットワークの評価平均値

 全体傾向として、アルムナイネットワークの取組を好意的に捉えていることが分かった。

そのなかでも「かならずしも1つの会社にこだわらず働きたい」「いくつもの会社を経験したい」「将来は起業したい」という能動的キャリア志向の層は、「出来るだけ一つの会社で働きたい」「わからない」という保守・受動的キャリア形成観の層よりも、より好意的に捉える傾向がある。

3.2.アルムナイネットワークの評価と体験

 アルムナイネットワーク内での体験とアルムナイネットワークの評価の相関関係を分析した。

図8.アルムナイネットワークの評価とアルムナイネットワーク内体験の相関係数

 いずれの取組もアルムナイネットワークの評価に対して正の相関を示した。一方で何も体験をしていない「特になし」については負の相関を示した。

このことから、ネットワークを構築するだけでなく、何らかの体験を作っていくことが評価を高める可能性が高いことがわかった。

3.2.アルムナイネットワークの評価と働くうえでの重視事項

 アルムナイネットワークに参加している層の働くうえでの重視事項とアルムナイネットワークでの評価の相関関係を評価した。

図9. アルムナイネットワークの評価と働くうえでの重視事項の相関係数

「経営理念・企業のビジョン・社風」を重視する価値観がアルムナイネットワークの評価と正の相関を示した。ほかにも「社会を良くしたり他人に奉仕したりしたい」「組織の中で責任ある役割を担いたい」「社会に役立つ仕事ができること」「専門知識や特技が活かせること」などの貢献・能力発揮に関する価値観も正の相関を示した。

 一方で「自律的で高い自由度をもって仕事をしたい」「転勤がないこと」「個人的な欲求や家族、仕事とのバランス」「労働時間や通勤時間が短いこと」などのワークライフバランスやライフスタイルに合わせた働き方を重視する価値観、「能力開発の機会が充実していること」「賃金が高いこと」「福利厚生が充実していること」などの待遇面を重視する価値観はアルムナイネットワークの評価と負の相関を示した。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です